皆様こんにちは、大学の韓国語の授業で出される宿題の量が多くて大変な石川です。
以前外国語で日本の漫画を読む話をしましたが、今回は具体的に作品を取り上げてその漫画がどのように韓国語に訳されているかを見てみようと思います。
第一弾として、あずまきよひこ先生作の「あずまんが大王」から。
非常に日本語版に忠実な「漫画版」
(韓国語版あずまんが大王-新装版)
韓国ではあずまんが大王は「아주망가 대왕」で表記されています。読みは「アジュマンガ・デワン」。
「アジュマンガ」に特に意味はなく、「あずまんが」をそのまま韓国語表記したものそうです(「ず」が「ジュ」になっているのは韓国語に「z」の発音がないから)。そして「デワン」が「大王」の意味。
そもそも「あずまんが」にも「大王」にも大した意味はないのですが、韓国語では意味の無さに一層拍車がかかっています。
では、中身を見てみましょう。読んでみると、原版である日本語版に非常に忠実だなと。ちよちゃんの敬語使いや台詞の言い回し、場面設定などもほぼ改変なく翻訳されており、日本語そのままのニュアンスで韓国語版を読むことができます。
結構ギャグ漫画は他言語に翻訳されるとそのニュアンスが崩れてしまうことがあるのですが、あずまんが大王ではほとんどそのようなことはないです。
それどころか現地韓国の事情に合わせた改変をしてもほとんどニュアンスを損なうことなく、日本語版そのままの雰囲気でお話を読むことが出来ます。
(韓国語版あずまんが大王2巻165pより)
たとえば上の「大阪さん仕事してー!」という台詞の韓国語への翻訳は「大阪お姉さん仕事してください!」となります。ちよちゃんが大阪のことを「お姉さん」と呼んでいるのが印象的です。
しかし、このギャグの本質は「大阪が仕事をしないことに対してちよちゃんが突っ込む」であり、大元のギャグについては何も変化が起きていないのです。
あずまんが大王の韓国語版ではそのような翻訳の仕方がほとんどです。
ちなみに韓国では自分の先輩には「~お姉さん」「~お兄さん」に当たる単語をつけて呼ぶことが多いです。なので韓国語版ではちよちゃんは智のことも「ともお姉さん」、榊さんのことも「榊お姉さん」と呼びます。
なぜギャグのニュアンスが保たれるのか?
理由としては「あずまんが大王」という漫画で展開されるギャグの普遍性でしょう。
そもそもあずまんが大王は子供から大人まで読んだ人が誰でも楽しめる非常に万人受けしやすい作品となっているのが特徴。人をほとんど選ばない作風からか国境を越えて受け入れられるネタが多いのです。
日韓を見比べながら読んでみるとギャグが非常に訳しやすいことに気付くんですよね。ダジャレのような言葉遊びもほとんどないうえ、「学校」という概念があれば誰でも通じるギャグ構成であること、やはりこれに尽きると思います。
だからこそ、日本語に忠実に訳しやすいそんなギャグマンガが「あずまんが大王」なのです。
(韓国語版あずまんが大王第2巻p151より)
ただし、韓国語に翻訳するにあたっていくつか日本語版と異なる部位もあり、それがかおりんの榊への敬語使い。
サブキャラ的役割のかおりんは榊に憧れていて、その思いが高じて榊に敬語を使っていますが韓国では同輩や年下に敬語を使うことはまずはありません。寧ろ敬遠しているようなニュアンスが出てしまいます。
そのため韓国語版ではかおりんの敬語使いは一つ残らずタメ口に直されています。呼び名も「榊さん」ではなく「榊」。そのため、原作である日本語版に慣れ親しんだ私にとってはかおりんがちょっと違うキャラに見えます…。
また反対に身内以外の年上には絶対に敬語を使わないといけないという決まりもあり、生徒がゆかり先生やにゃも先生に時折使うタメ口もちらほらと敬語に直されています。韓国ではここでは絶対敬語!のような場面でため口に直されています。
と、韓国語版あずまんが大王の漫画の韓国語バージョンについてお話してまいりましたが、「なーんだ日本と同じじゃん」と思われたでしょう。
実はあずまんが大王は日韓で大きく違うところがあるのです。それは「アニメ版の設定」。
なんとアニメ版のあずまんが大王は韓国ではローカライズされており、舞台が韓国に変更されています(確定はできませんが多分ソウルです)。
当然、登場人物も韓国人。韓国の名前を持ち、韓国の高校に通う女子高生に変更されているのです。
次回はそんな韓国語版あずまんが大王”アニメ版”についてお話しします。